*

女子バックパッカーの本棚 ジュンパ・ラヒリ『低地』

公開日: : 最終更新日:2015/01/28 2015, 本棚

 

2014年8月に邦訳が発売されたばかりのジュンパ・ラヒリの『低地』。Twitterやブログをフォローしているアジア好きの方々の中でも結構な話題になっておりました。

作家はロンドンで生まれ幼いころにアメリカへ移住したインド系(というよりベンガル系、といったほうが正確か)アメリカ人ジュンパ・ラヒリ。

彼女の作品のテーマはやはりインドや、アメリカに移住したベンガル人(の中でもさらにヒンドゥー教徒)を題材にしたものがほとんど。

本作『低地』もインドのとある家族、そしてインドからアメリカへと移住した主人公達とその娘が軸になって話が進んでいきます。

ガウリに3度裏切られる。

主要登場人物の妻であり母親でもあるガウリに、というか、作者ラヒリに、といった方が正しいかもしれない。え!そんな!という展開が三度もありました。一度裏切られて二度まで!というのはありそうだけど、そうきたか、と。

最後の最後でガウリの心に深く刺さったもう一つの楔が明らかになります。正直、私にはガウリは理解し難い、共感できない行動をたくさんしています。

でもそれは夫の死、だけじゃない(それだけでもだいぶ悲痛な出来事ではあるのですが)、詳らかには語られていないなにか別の闇のようなものが終始つきまとっているんですよね。

人物描写以外のみどころ

目上の人の足のほこりを祓う動作、髪の毛の分け目に入れる既婚の赤い印。親が亡くなると男性は髪を剃る習慣。

語り手が入れ替わるので説明がされたりされなかったりしますが、細かいインドの習慣を描写する場面がたくさん練りこまれていてそこもまた興味深いです。

驚くのは1970年代のコルカタの様子として描かれていても似たような状況がまだ実像としてイメージできたこと。鉄道の窓の格子。ハウラー駅。

急速に発展するインドですが、しかし庶民の生活に根付く習慣はまだまだ健在。これからインドにいく人、インドに行ったことのある人はこの辺も注目したいところ。

他の作品でもそうですが、彼女のこういう細かい情景描写が私は好きです。

作家 ジュンパ・ラヒリ

ジュンパ・ラヒリはデビュー作『停電の夜に(原題:Interpreter of Maladies)』という短篇集がいきなりピューリッツァー賞を受賞して話題になった作家さん。

個人的には海外の小説ってそれまでそんなに得意ではなかったのですが、訳者さんがうまいのか、原文から小難しくない表現を使っているせいか、すごく読みやすい。翻訳小説の食わず嫌いを直してくれた思い出の作家さん。

インドでヨガを勉強していた頃、始めの数日間、風邪を引いて引きこもっていて、暇にあかせて一気に『その名にちなんで』を読み上げて、後々のインド生活で「あ、この人がやっているのは小説に出てきたあの習慣だ」なんて幾度となく思った思い出も。

移民文学?

ジュンパ・ラヒリはその出自から「移民文学」というテーマでもよく取り上げられる作家でもあります。

表紙帯にあるロサンゼルス・レビュー・オブ・ブックスの評に「ラヒリは「移民系」の作家ではない。アメリカの現実を書く文学の系譜にある。この見事な出来栄えの小説は、どこに帰属すればよいのかという果てしのない研究によって、きわめてアメリカ的な状況を描きだしている。アメリカでは誰もが外からやってきた。誰もが移民なのである。」とわざわざ記載されているところからして、逆に彼女がいかに「移民系」の作家と世間に認識されているかが浮き彫りになります。

しかし訳者あとがきでも触れられていましたが、ラヒリ自身は「移民文学(Immigrant fiction)」という用語について「どう考えたらよいかわからない」と発言しています。

そもそもアメリカという国は建国の歴史を見てもネイティブアメリカンをのぞいた全員が移民の歴史を持っていて、アメリカの古典文学と言われるものも移民文学とも言える側面を持っていますから、至極最もな意見です。

彼女の作品にはインド系という出自が色濃く反映され、移民というテーマを扱ってはいるのですが、20代でスイスに移住したハンガリー人作家アゴタ・クリストフみたいにやむを得ず移住し、やむを得ず他言語で執筆した(アゴタ・クリストフは執筆言語のフランス語を敵語とすら呼んでいる)わけではないのでそう言いたくなるのも納得できます。

作品の登場人物で言えば、アメリカで生まれた娘ベラの描写がその辺の意識がある意味反映されているように思います。

ベラには「移民2世」や「異民族」といった描写が皆無なのは恐らく意図的なのではないでしょうか。すなわち、誰もが移民であり、移民であることは何ら特筆すべきことではない、と。

外野がわいわい議論しているだけで、ラヒリは移民系作家か、と議論すること自体ナンセンスだと思っていることでしょう。

前作『その名にちなんで』とは違い、この作品では特に「移民する」ということ、「インド人である」ということの特殊性が最初限に抑えられています。

それより他にもっと見るべきところはある。移民文学の項目に文字数を割いておいてあれですが、そう実感させられる作品でもありました。

書籍情報

邦訳版

原書(ペーパーバック)

邦訳版の邦画ブックデザインが洗練されていて好き、とたまたま同時期に同書を購入していた英国人の友人に話したら「知らない人が見たらこのペーパーバックカバーはオランダのガイドブックと勘違いする人もいそうだよね。(オランダは低地で有名な国なので)」との返答が。笑

でもよくよく調べたらハードカバー版の原書はなかなか素敵でした。

文中で紹介した他の本

『その名にちなんで』は新潮文庫版のブックデザインが好きだったのですが、絶版になってしまったようです。文庫好きとしても残念。古書はネットでも入手可能。

逆に『停電の夜に』は文庫版もありますが、単行本の方がブックデザインが素敵。

『見知らぬ場所』は文庫本未刊行。

女子バックパッカーの本棚

読んだ本を記録ついでにご紹介するシリーズ。紀行文系のものはもちろん、海外文化等につながる本等々を紹介していきます。

お読み頂きありがとうございます。
ランキング参加中です。
クリックして頂けると励みになります!
にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村

follow us in feedly follow on twitter

スカイスキャナー
「dTV」ムゲン楽しい映像配信サービス

シェアしてもらえると嬉しいです。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

読書効率アップ。kindleがPCで読めるように!kindle for PCが和書に対応!

以前楽天のkoboとAmazonのkindleとどっちが便利か?という比較記事を出したのですが、その

記事を読む

最新版!円安でも17万円でLCC世界一周は本当にできるのか?!航空券検証。

前回、日米往復とさほど変わらない料金で世界一周できるんじゃないか?!という疑惑が出たのでさっそく

記事を読む

2015年元旦に立てる11の目標。

さて平成も27年目。2015年になりました。喪中なため新年のご挨拶は控えさせて頂きますが、一年の

記事を読む

こんなにもわくわくした本は初めて。「年収100万円の豊かな節約生活」

年金やら健康保険やらも含めて年100万円でいかに豊かな食生活ができるかを追求する本。貧乏生活ではなく

記事を読む

東京シャトルって知ってる?噂の格安空港バスに乗ってみました。

東京から成田空港まで900円のバス!東京シャトル 東京に越してきてから初の海外。都内からだと電車の

記事を読む

新生活・短距離単身引越し。一番安くて便利だった意外な会社…!赤帽

最近更新が滞ってましたが、実はその間お引越しをしておりました。関東某県から東京都内へのお引越し。

記事を読む

紅茶の美味しさがわからなかった私が辿り着いた衝撃的に美味しいお茶とその価格。

紅茶の美味しさがわからなかった私が辿り着いた衝撃的に美味しいお茶。 コーヒーの美味しさがいまひ

記事を読む

なんでもっと早く読まなかったんだろう!どんな人にもおすすめしたい旅エッセイ

角田光代さんの「いつも旅のなか」 先日何気なく選んだ角田光代さんの『いつも旅のなか』がすごくよくっ

記事を読む

無料のおすすめヨガ動画・アプリ4選。30日間チャレンジ動画

無料のヨガ動画を見つけました。 友人がFACEBOOKでシェアしていた動画、無料なのに30日間

記事を読む

イスラム教って?こんな時期だから観たい映画「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」

バックパッカーの映画鑑賞記録 追悼 オマル・シャリフ 先日、名優オマル・シャリフが亡くなった

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


*


  • ISHU

    旅好き食好き映画好きのゆるバックパッカー。家が大好きで引きこもりがちですが、一度外に出るとなかなか帰ってこない習性があります。

    ヒンディー語漬けだったインドヨガ修行以外に海外在住・留学経験はありませんが、TOEIC500点未満から915点(リスニング満点)まで英語力アップ。おすすめのTOEIC本はこちら(アマゾン)

    詳しいプロフィールはこちら

    follow us in feedly follow on twitter

    お問合せ

no image
お知らせ

Ishu のシンガポール転居に伴い、シンガポール移住前掲載のブログ管理

入院の時の荷物。用意しておきたいもの・あってよかったものベスト10

先日、母が骨折で救急車で運ばれ、そのまま入院することになりました。

わたしに会うまでの1600キロ。いや、4260キロ!パシフィック・クレスト・トレイルにリアル挑戦中のレイチェル

いつもは日本語だけで書いていますが、今日は特別に英語併記のエントリ

コーヒー嫌いを克服させたヨーロッパのコーヒー。違いは豆ではなく…

コーヒー嫌いを克服させたコーヒーとは 私が初めてコーヒーを一杯ま

ヤマザキマリさんがtwitterをやめたのは契約問題に言及したせい?

ヤマザキマリさんがtwitterのアカウント閉鎖した理由? Tw

→もっと見る

PAGE TOP ↑